平成18年5月1日に新会社法が施行されました。今回の改正は大幅な改正になりました。
改正の趣旨は、昨今の社会経済情勢の変化への対応、規制緩和撤廃による経済界の活性化、定款自治により経営実体に合った会社制度活用の可能性拡大などがあげられます。
ここでは、改正点および重要な項目を中心に記載いたします。
さて、改正の主要点は以下の通りです。
1.有限会社の廃止(今後は有限会社が設立できなくなりました!)
2.株式会社の最低資本金制度の撤廃
3.類似商号の規制廃止(規制緩和による事業参入の容易化)
4.株式会社の設立手続の一部が容易になった
5.株式会社の取締役の任期が10年まで伸長できる場合がある
6.株式会社の取締役は1人だけでも可
7.株式会社でも監査役を設置しない場合あり
8.株券を発行しない形態が原則となった
9.株式会社の増資は払込期日ではなく払込期間でもよくなった
10.合併の効力発生日の任意設置が可能になった
11.合併に際しての対価が柔軟になった
12.株式交換時にも債権者保護手続が必要になった
13.合同会社の設立が可能になった(全員有限責任社員)
14.支店における登記事項の縮小(商号・本店の所在場所・支店の所在場所のみ登記すればよくなった)
従来の商法では、株式会社は最低でも取締役3人が必要でした。改正法により、株式会社は取締役1名のみで存続できるようになりました。また、定款による機関設置の自由を認め、会社の定款自治の範囲を拡大しました。
新会社法の役員変更の約束事は以下の通りです。
●取締役は1人で可。取締役会を設置する会社であれば3人必要。
●次の会社は取締役会を置かなくてはならない。
公開会社・・・株式の譲渡について、一部でも自由に譲渡できる会社
監査役会設置会社・・・監査役会を設置する会社
委員会設置会社・・・多数の取締役から委員を選任し、指名委員会、監査委員会、報酬委員会という委員会組織を作り、会社経営のチェックを強化する会社
●監査役を設置しないことができる。
●取締役会設置会社は監査役を置かなくてはならない。
●委員会設置会社は、監査役を置いてはならない。(理由:監査委員会があるから)
●委員会設置会社は、会計監査人を置かなくてはならない。
●会計参与という法制度ができた。会計参与とは、会社の計算書類を取締役と一緒に作成する税理士や公認会計士などの資格者。会計参与の設置は任意。
●会計参与はどのような会社形態でも設置できる。
<まとめ>
株式会社の機関設計のパターンは以下のとおりです。
<株式会社の機関設計パターン>
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大会社以外の会社
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大 会 社 資本の金額5億円以上、負債総額200億円以上
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非
公
開
会
社
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A.取締役 B.取締役+監査役 C.取締役+監査役+会計監査人 D.取締役会+会計参与 E.取締役会+監査役 F.取締役会+監査役+監査役会 G.取締役会+監査役+会計監査人 H.取締役会+監査役 +監査役会+会計監査人 I.取締役会+委員会+会計監査人
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A.取締役+監査役+会計監査人
B.取締役会+監査役+会計監査人
C.取締役会+監査役+監査役会 +会計監査人
D.取締役会+委員会+会計監査人
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公
開
会
社
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A.取締役会+監査役 B.取締役会+監査役+監査役会 C.取締役会+監査役+会計監査人 D.取締役会+監査役+監査役会 +会計監査人 E.取締役会+委員会+会計監査人
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A.取締役会+監査役+監査役会 +会計監査人
B.取締役会+委員会+会計監査人
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(注)非公開会社とは、株式の譲渡につき、全部または一部でも譲渡が制限されている会社を意味します。公開会社とは、株式の一部でも、譲渡が自由な会社を意味します。
<役員の任期>
取 締 役
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原則:2年 非公開会社の場合、定款で10まで伸長可
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監 査 役
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原則:4年 非公開会社の場合、定款で10まで伸長可
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定款で任期伸長できるのは、いずれも非公開会社の場合
会社が経営資金を調達する方法は主に2つあります。1つは募集新株の発行(増資)です。増資により、会社経営の構成員である株主が誕生します。
残りの1つは、社債の発行です。社債は会社の債務であり、株主という構成員は生じません。
いずれの手続によっても、会社資金を機動的に調達することができますが、増資手続をすると株主(構成員)が生じてしまいますので会社経営に若干の影響があると思われます。
なお、従来の商法では、株式会社が増資を行う場合「新株発行」と言いましたが、新会社法では「募集株式の発行」と呼ぶようになりました。
<増資の流れ>
1.募集株式の募集事項の決定
会社は、募集株式の数、払込金額などの募集事項についての決議をします。この決議は、原則として株主総会で決議します。公開会社の場合は、取締役会で決議をします。
2.株式の申込、割当、引受
会社に対し、株式の引受の申込をすると、会社は申込者の中から募集株式の割当を受ける者を定め、その者に割当数を定めます。この時点で株式引受人としての地位が確立されます。
3.株式引受人の出資金の払込
発起設立と同様、払込取扱手続が簡素化。現物出資をする場合の要件が緩和されました。金銭債権を現物出資することが解禁。
4.株主になる時期と登記手続
(i)払込期日がある場合
出資者が株主になる時期=払込期日 払込期日のから2週間以内に登記必要
(ii)払込期間を定めた場合
出資者が株主になる時期=払込をした日 払込期間の末日から2週間以内に登記必要
<募集株式の発行による変更の登記に必要な添付書面>
1.募集株式の引受けの申込又は募集株式の総数の引受を行う契約をしたことを証する書面
2.金銭を出資の目的とするときは銀行等への払込を証する書面
3.金銭以外の財産を出資の目的とするとき
(イ)検査役が選任されたときは、検査役の調査報告を記載した書面およびその附属書類
(ロ)市場価格のある有価証券を出資の目的とするときは、有価証券の市場価格を証する書面
(ハ)現物出資財産の価額が相当であることにつき弁護士、弁護士法人等の証明を受けたときは、その証明を記載した書面及びその附属書類
(二)株式会社に対する金銭債権を出資するときは、その金銭債権について記載された会計帳簿
4.検査役に関する裁判があったときは、その謄本
世間一般、有限会社という会社が存在しますが、法改正により今後新たに有限会社を設立することができなくなりました。会社を設立するのであれば、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社のいずれかを設立することになります。今回の改正で、株式会社は、株主1名と取締役1名だけで設立できるようになりましたので、簡易な会社形態で業務を開始する場合には、上記のような株主1名と取締役1名の株式会社設立が多くなると思われます。
それでは、「既存の有限会社はどうなるのか?」ですが、既存の有限会社もそのまま存続することとなります。法律上は「特例有限会社」として存続することになります。
「特例有限会社」とは、商号中に有限会社という文字を残しているものの、新会社法の規律はもちろん、従来の有限会社法の規律も適用される、新会社法上の株式会社です。
「特例有限会社」については、法改正後も、そのままにしておいても基本的には何ら問題はありません。
なお、今回の改正法では、上記「特例有限会社」から株式会社に変更する手続を創設しています。この手続により株式会社に鞍替えすることができます。
<特例有限会社から株式会社への商号変更手続>
1.株主総会決議で定款を変更
「●●●●有限会社」の商号を、「●●●●株式会社」に変更します。株主総会を開催して定款変更決議をします。
最低資本金制度が撤廃されたため増資は必要ありません。
2.特例有限会社については解散の登記、株式会社については設立の登記をする
添付書面は以下のとおりです。
(1)変更後の定款
(2)株主総会議事録
なお、この設立の登記と解散の登記は同時に申請する必要があります。
この手続は、会社の商号を変更して新たな気分で経営着手する場合などに適していると考えられます。ただ、株式会社変更に伴う「商号」変更などに伴う経費などを考慮しておく必要があります。