株式会社を設立する方法には募集設立と発起設立があります。募集設立とは広く一般から出資者を募集する設立形態です。会社設立時から大資本会社を設立する場合などには募集設立による会社設立になると考えられます。
これに対し発起設立とは、発起人だけで出資する会社設立の形態です。
会社をおこす場合、まずは1人(数人)で小規模に業務をはじめ、徐々に会社を大きくしていく傾向が一般的であり、このような場合は発起設立で会社を設立することになります。実務上も発起設立が多いことから、以下では発起設立の手続を中心に説明します。
(赤字で記載した部分が法令上の改正点になります。)
<発起設立>
1.定款の作成・認証
定款を作成します。定款作成において会社役員や出資金額を決めます。ここが重要な作業になります。
定款作成後、公証人役場で定款認証をします。(近年、電子定款認証が可能となりました。以下の説明をご参照ください)。公証役場で認証しない定款は、定款としての効力が生じませんのでご注意ください。類似商号の規制が廃止されましたが、当事務所は実務上「類似商号の調査」を実行致しております。
★電子定款認証について(電磁的記録の認証の嘱託)★
今までは、「紙」で作成した定款を公証人役場に持参し、定款認証の印紙代として4万円を納めることではじめて定款が認証されました。
しかし近年のオンライン申請手続では、以下のような手続をとることで「紙」定款による印紙代4万円不要となっています。
(1)紙の定款をPDF化し、そのPDF文書に司法書士の電子署名をします。
(電子署名とは、「この文書は確かに司法書士○○が作成した文書である」ことをパソコン上証明する作業で、その司法書士が持っている司法書士会から与えられたカードによりなされるパソコン上の作業です。いわばパソコン上の作業で印鑑を電子押印するイメージです。)
(2)電子署名したPDF文書を、法務省のオンライン申請システムから公証人役場に送信します。
(3)公証人の定款認証が完了したら、パソコン上「完了」の連絡が来ますので、公証人役場に「電子認証された定款」を取りに行きます。(フロッピー又はUSBメモリーで渡されます。)
(4)電子定款認証ができるようになったからといって公証人役場に行かなくて良いわけではありません。公証人役場に直接出向き、定款の謄本(公証人の職名の入った紙の定款)や上記(3)のフロッピーを受領し、公証人の定款認証手数料5万円を支払う必要があります。
★電子定款認証で定款認証すると★
今までの紙の定款認証 |
電子定款認証 |
定款認証の印紙代 4万円必要 |
4万円不要(これがかからない) |
公証人に支払う定款認証手数料
5万円必要 |
同じく5万円程度 |
定款の謄本を受領する手数料必要 |
同じく必要 |
2.設立時発行株式に関する事項の決定
発起人の割当株式数・その払込金額・成立後の株式会社の資本の額に関する事項を、発起人全員の同意で決定します。 実務上は、これら必要事項も定款で決定してしまいます。
3.出資の履行
出資の払込があったことを証する書面として、設立時代表取締役の作成に係る払込取扱機関に払い込まれた金額を証明する書面に(a)払込取扱機関における口座の預金通帳の写し、または(b)取引明細書その他の払込取扱機関が作成した書面、どちらかを添付すればよくなりました。
口座の預金通帳の写しを添付する、など手続が簡単になりました。
実務上は、会社成立後に利用する金融機関に、発起人個人の新規口座を作成していただき、その口座に資本金を振り込んでいただきます。
<資本金について>
新会社法では最低資本金制度を撤廃したため、資本金制限がなくなりました。そこで資本金をいくらにするかという問題があります。発起設立であれば「まずは小規模に企業したい。」という方が大半であると思われます。そこで従来の有限会社の最低資本額である300万円を資本金にすることをご提案させていただいております。
資本金1円で会社を設立することも可能ではありますが、業績が向上し金融機関からの融資を受ける際に「資本金1円」の登記事項証明書では会社の対外的信用力に問題があると考えられます。
この他、出資の際、金銭ではなく「物」で出資する現物出資の場合、現物出資の価額の総額が一律500万円を超えない限り、裁判所選任の検査役の調査が不要になりました。(要件が緩和されました。)
4.設立時役員等の選任(取締役1名で会社設立できます)
会社が成立する前の役員を「設立時取締役」「設立時監査役」と表現し成立後の役員と区別をしました。
発起人1人で会社を設立する設立形態を「1人会社」といっています。「1人会社」の場合は通常その発起人が取締役及び代表取締役になります。(対外的にも会社を代表します。)
5.設立時取締役等の設立調査
定款の記載された現物出資額の価額が相当であること、その証明について相当であること、出資の履行が完了していること、法令定款違反がないことを、設立時取締役が調査します。
実務上は調査書を作成のうえ登記所に提出することになります。
6.設立時代表取締役の選任(取締役会設置会社の場合)
取締役会設置会社の場合、代表取締役を選任します。
7.設立登記
設立登記により会社が成立します。設立手続の調査終了日又は発起人が定めた日(ここが改正点)のいずれか遅い日から2週間以内に登記をしなければなりません。
<オンライン(電子)申請による登記申請>
不動産登記と同様、商業登記においてもパソコンで登記申請する「オンライン(電子)申請」が可能です。作成した登記申請情報を、法務省のオンライン申請画面から電子申請することにより、登記所に行かずに登記申請することができます。登記完了後に「印鑑カード」を受領しに行かなくてはならないものの、申請時に一度登記所に行く手間を省くことができます。
<オンライン(電子)申請の登録免許税>
会社設立登記を申請する際に国に「登録免許税」を支払う必要がありますが、オンライン申請をすると、登録免許税が一律5,000円の割引になります。
<まとめ>
- 株主総会と取締役1名だけで簡単に会社設立ができるようになりました。
- 発起設立の際の出資方法が容易になったことで、会社設立が簡単になりました。
- 「物」で出資する現物出資の場合の要件が緩和されたことで、金銭以外の出資方法の幅が広がりました。