A、Bそれぞれ2分の1づつの共有名義で所有権保存登記した家屋に、Cの抵当権が設定されています。この度、A単独所有の所有権にしたいという相談を受けました。
方法としてはいくつか考えられますが、当事者の話を聞き、どうやら所有権更正登記ではないかと判断できました。
この所有権更正登記とは、本当はAが不動産を取得したはずなのに、誤ってAB共有の登記を入れてしまったのでAを単独所有者として登記をし直す、という登記です。2分の1のA名義については間違いはないということなので、2分の1のB持分のみが間違っているという評価ができ、一部抹消という意味合いがあります。
ただ、この更正登記をすると、一つ問題が生じます。Cの抵当権はAB共有の不動産に設定されたものであり、更正登記によりはじめからAが所有者だったとすると、当初Aがはじめから取得していた2分の1の持分に抵当権を設定していて、Bの持分には設定しなかったという評価をします。そのため、当初のA持分2分の1についてだけ抵当権を設定していたと考え、抵当権者Cの持分をA持分に更正(つまり縮減)する登記をしなくてはならなくなります。
この不動産登記法の考え方により、登記を無事に納めるためには、Cの抵当権の範囲が縮減されることをC自身が承諾したことを証するため、Cの承諾書が必要になります。
さて次に、Aの持分に縮減される抵当権者Cは、この状態を承服できないことは当然です。「元のように所有権全部に抵当権がかかっている状態に戻したい」といった心境でしょう。
そこで、通常、抵当権者Cは、Aが更正登記によって新しく取得した持分につき、抵当権の追加担保を取りたいということになり、Cの承諾と引き替えにAに追加担保の要求をしてくるはずです。特にCが金融機関等であれば当然に要求してきます。
この時に行う登記が、一度縮減した抵当権を、再度所有権全部に及ぼす場合に申請する「抵当権の効力を所有権全部に及ぼす変更」登記になります。この登記は変更登記であるものの、実質上持分の追加設定登記です。
以上の登記は、司法書士試験で出題されるような登記案件です。確か過去に出題されたことがあると記憶しています。
試験では、書類だけを見て判断するのでしょう。実務では、お世話になっている関係者の方から登記事項証明書をパサッと渡され、状況を説明され、「どうしたら良いでしょうか?」と来ます。持ち帰る時間はあるものの、見た瞬間、概ねの判断をしたうえで、だいたいの見解や意見を述べたほうが関係者の方も安心すると思います。
それにしても、こんな登記を実際に受託することがあるとは思ってもいませんでした。
ちなみに、以上の「及ぼす変更」登記をした場合、オンライン指定の登記所では登記識別情報は出ません。ご注意ください。